電気二重層キャパシタについて

1.はじめに

 ナノレベルの小さな孔を大量に含む炭素、すなわち多孔質炭素は、脱臭剤や脱色剤、あるいは水浄化用のフィルターとして身の回りの中に多く利用されている。多孔質炭素はその小さな孔(細孔)に臭いや汚れの分子を捕らえるだけでなく、電気の力を借りればイオン(電荷を帯びた原子や分子)も捕らえることができる(図1)。捕らえた電荷は取り出すこともできるので、これを利用して大容量のキャパシタ(別名:蓄電器、コンデンサ)が開発されている。大容量のキャパシタは、燃料電池自動車の補助電源や夜間の余った電力を蓄える貯蔵庫としても使える(図2)ので、近年、非常に注目されるようになった。ここでは、多孔質炭素の細孔の様子、作り方、そしてキャパシタ用多孔質炭素に関する研究例について簡単に紹介する。



図1 活性炭の細孔とイオンの捕捉





図2 電気二重層キャパシタの用途


2.多孔質炭素(活性炭)の製造法

 ナノレベルの大きさを持つ細孔は、どのようにして作られるのであろうか?原料の炭素を化学的に処理して多孔質炭素は製造される。その製造プロセスは賦活(活性化ともいう)と呼ばれる。賦活は、水蒸気あるいは二酸化炭素による炭素のガス化反応であり、炭素が虫食いされるようにして細孔が形成される(図3)。つまりは、反応しにくい部分が細孔壁となって残りが多孔質炭素となる。賦活によって製造された多孔質炭素は活性炭と呼ばれる。賦活は水酸化カリウムや塩化亜鉛を原料炭素と共に熱処理することによっても可能である。



図3 賦活(活性化)のイメージ


3.活性炭の構造

 活性炭の細孔は、その大きさにより、ミクロ孔(2nm以下)、メソ孔(2nm〜50nm)、マクロ孔(50nm以上)に分類される。活性炭はこのミクロ孔が三次元的に非常に発達しているため、1グラムで1000m2以上の表面積を持つ。活性炭の細孔の構造は非常に興味深いのだが、意外に現在でもあまりよく分かっていない。図4にモデルの一つを示すが、ミクロ孔は積層した炭素網面(グラフェン層)のすき間、すなわちスリット状になっていると考えられている。



図4 活性炭の構造モデル


4.炭素のキャパシタ(電気二重層キャパシタ)

 図5に活性炭を用いたキャパシタの概念図を示した。二枚の活性炭の電極を電解液に浸して、電圧を印加すると、電荷が蓄積される。この時、活性炭の細孔表面と電解液の界面に電気二重層が形成されるので、このようなキャパシタを電気二重層キャパシタと呼ぶ。



図5 電気二重層キャパシタの概念


 電気二重層は、電子(あるいは正孔)とプラスイオン(あるいはマイナスイオン)が界面にて対峙した層である。ここが誘電的な性質を示すのでキャパシタができる。電気二重層キャパシタは充電時にはイオンが細孔壁に吸着し、放電時には吸着イオンが電解液中に戻る。すなわち、イオンが細孔に多く、かつ速やかに吸脱着されることが求められる。


5.最近の研究例の一つ

 電気二重層キャパシタはイオンの吸脱着が蓄電原理であるので、二次電池のように化学変化を伴わない。そのために寿命が長く素早い充放電ができるのがメリットである。しかし、蓄えられる電荷、すなわち蓄積エネルギーの大きさは二次電池に比べて小さいので、電気二重層キャパシタは高容量化が求められている。筆者は最近、既存の活性炭に比べて高い容量を発現する新しい多孔質炭素材料を開発したのでそれを紹介したい。図6の電子顕微鏡写真は、活性炭のナノ繊維:多孔性カーボンナノファイバである。これは大谷朝男名誉教授が考案した「ポリマーブレンド紡糸法」によるカーボンナノファイバを賦活することで開発された。多孔性カーボンナノファイバは、繊維径がわすか約100〜200nmであるので、細孔の奥行きが従来の活性炭より大幅に短くなっている。多孔性カーボンナノファイバの容量を評価したところ、市販の活性炭素繊維(繊維径:10μm)と比較して容量が約50%増加していることが分かった。ただし現在のところ、この多孔性カーボンナノファイバの優位性が発揮される条件が非常に限られており、さらなる研究を進めているところである。



図6 多孔性カーボンナノファイバの透過型電子顕微鏡写真



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